取材・写真・文=山下剛
アメリカ・コロラドで開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」は、1916年にはじまった歴史ある公道レースで、標高2800m地点をスタートし、4300mの頂上を目指す。ガードレールがない区間も多く、ひとつ間違えれば崖下に真っ逆さま……という過酷なレースに今年、2人のサムライが挑む。
2010年、マン島TT・スーパースポーツクラスを完走した伊丹孝裕さん。2台のマシンとスペアパーツ、工具など一式を詰め込んだハイエースを船便でイギリスへと送っての参戦だった。「アマチュアがひとりでできること」を念頭においたレース参戦を実践している。(撮影=Peter Callister)
パイクスピーク・ヒルクライムに挑むサムライたち
~ライダー・伊丹孝裕(1)~
インタビューに答える伊丹孝裕さん。「全日本だけがロードレースじゃないと思うし、世界への扉はいろんな方法で開けられる」と語る。これはやはりマン島TT参戦ライダーである松下ヨシナリさんと共通する意見で、その点で彼らは意気投合している。
マン島TT、そしてパイクスピークへ
伊丹孝裕さんは1971年生まれ、41歳。二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集とライター、そしてマシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとしても活躍している。2010年にはマン島TT・スーパースポーツクラスに参戦し、決勝の2レースを見事に完走した実績を持つ。
「マン島TTに参戦したのは、取材で訪れた06年、その迫力とレースとしてのおもしろさに衝撃を受けたことがきっかけでした。その感動を、マン島TTに参戦していた前田淳さん(’96~’06年にマン島TTに参戦。日本人初となるシングルフィニッシュ=シニアTT6位を記録するも06年予選中の接触事故により他界)に話したら、真剣に受け止めてくれていろいろとアドバイスもくれたんです」
その後、伊丹さんは編集部を辞めてフリーとなり、マン島TT参戦に向けて本格的に活動をはじめた。参戦資格を得るために地方選手権に参戦して実績を重ね、3年をかけて国際ライセンスを取得。晴れてマン島TT参戦が受理された。
「マン島TTへの憧れももちろんありましたけど、亡くなってしまった前田さんとの約束を果たしたいという気持ちも大きかったですね」
一度出場したからといって、それだけで伊丹さんは満足したわけではない。むしろ10年のマン島TT参戦は新たなスタートだった。
「マン島TTもそうですし、これから走るパイクスピークもそうなんですけど、やれば届く、挑戦の舞台だと思うんです。プライベーターでもギリギリ見られる世界の夢」
伊丹さんは若い頃にライダーに憧れ、レース活動していた時期もあるが、怪我のためにレース活動を中断している。その後二輪ジャーナリストとして活躍しているが、プロライダーではなくあくまでプライベーターであり、誤解を恐れずにいえばどこにでもいる普通のライダーだ。そんなライダーでも、やり方次第で世界の大舞台へ挑戦できる。全日本ロードレースを目指し、そこで戦うことだけが世界への道ではない、ということを体で示したいとも話す。
「まだ結果がどうなるかわかりませんけど、パイクスピークの後で若い子たちが『あのレースに出たい』と言ってもらいたいですね」
サイドカーの渡辺正人さん同様、伊丹さんがパイクスピークへの参戦を決めたのも、やはりコースの舗装化だ。
「年々コースの舗装化が進んでいるのは知ってましたから、いつかは・・・と思っていたんです。去年、全面舗装になったのでレギュレーションを調べてみたら、想像していたよりも特殊じゃなく、これなら出られる、イケるんじゃないかって思えたんですね」
もうひとつ、伊丹さんがパイクスピークへの参戦を決めたきっかけとなったのは、昨年の鈴鹿8耐にチーム・ラベレッツァからドゥカティ・1098Rで参戦。想定するライバルとのラップタイムを比較してみるとその差が意外と小さかったこと、さらに27位という実績を残して完走したことが自信につながったという。
「オフロードが混在していた時代は終わったけど、今のパイクスピークはまだ混沌としている状態だと思うんです。その移り変わりをこの目で見ておきたいし、実際に走ってみたい。また、だからこそ勝機も大きいと思うんですよね」
伊丹さんが「勝つ」ために選んだマシンは、トライアンフ・スピードトリプルR。チューンとカスタムを済ませたマシンは、すでにアメリカ・デンバーへ向けて発送済みだ。
2012年、鈴鹿8耐を走る伊丹さん。チーム・ラベレッツァからDUCATI 1098Rを駆って参戦。27位完走という成績を残した。
●次回は「パイクスピークで勝つためのスピードトリプルR」をお届けします
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