写真/伊勢 悟 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
コーナリングの中で最も難しい部分はどこでしょう。それはたぶんアプローチ、「コーナーへの進入」ではないでしょうか。コーナーを曲がるためには最適な速度に調整する必要がありますが、それがなかなか難しい。ワインディングでは先のコーナーがブラインドだったりして、どれくらい曲がっているか分かりません。サーキットと違って初めてのコーナーが次々に現れる。そういう状況で、いかに自分の思いどおりに速度をコントロールしていくかが重要になってきます。ひとつのヒントとしてはブレーキのかけ方があります。一気にガツンと強くかけるのではなく、一定に長くかけるようにするのがコツ。「台形ブレーキ」と呼んでいますが、一定に長くかけていって最後にスーッと入力を抜いていくイメージ。十分な時間と距離を使いながら速度を調整していくことで、正確な「速度の見積り」が出せるようになっていきます。
もうひとつ、私が提唱しているのが「5段階アプローチ」です。コーナーに向けての動作・操作を5つのプロセスに分けて組み立てていこうというものです。手順としては、(1)コーナーへ向けて加速。(2)重心を移動して準備。(3)一定に長くブレーキング。(4)減速してからシフトダウン。(5)ステップイン(倒し込み)。このプロセスを頭で考えるのではなく、体で覚えるのが大事。コーナーの度にいちいち考えていると動作・操作が間に合わなくなってしまいます。
よくある例としては、コーナー手前ぎりぎりになって慌ててブレーキを強くかけすぎて失速、あるいはシフトダウンが間に合わずはみ出しそうになり、コーナーに入ってから腰をずらしてみたり、と後手後手に。コーナー直前ですべての動作・操作をいっぺんにやろうとすると忙しすぎてしすぎて失敗しがち。そうならないための「5段階アプローチ」です。
コーナー進入のプロセスを細分化してそれぞれを確実にこなすことで、安全でスムーズなコーナリングへとつなげていくことが可能になります。但しこれは速く走るためではなく、安全なコーナリングを楽しむためのスキルと考えてください。詳しくは下記の解説をご覧ください。動画も合わせてチェックしていただくと動きのイメージが分かりやすいと思います。
■ブレーキは一定に長くかける
図は「止まるためのブレーキ」と「曲がるためのブレーキ」それぞれの入力イメージ。危険回避を目的とした急制動の場合、短い時間の中で最大減速しなければならないためブレーキ入力は強く、その立ち上がり方も急激になる。一方、速度コントロールが目的のコーナー進入の場合は一定の強さで時間をかけて入力。かけ始めとリリースも穏やかになっていく。なだらかな「台形」を描くイメージだ。速度が高くなるほどブレーキ開始を早めに入力時間は長く、余裕を持って速度調整していくことでスムーズなコーナー進入が可能になる。
■(1)コーナーへ向けて「加速」
コーナー進入時における動作・操作を5つのプロセスに分けて組み立てることで、余裕を持ってスムーズで確実なアプローチが可能になる。まずは次のコーナーに向けて加速。上体を伏せ気味にしてアクセルを開けつつ、目線はコーナー入口まで広く見渡して周囲の安全をチェック。ハイパワーな大排気量バイクほど加速も強烈なので、上体を前傾させることで加速Gを相殺できてメリハリをつけやすく、スポーティに走っても疲れにくい。
■(2)重心移動しつつ「準備」
コーナー入口を見据えて加速しながらも、重心をイン側に移動しつつ倒し込みに備えて準備しておく。ライダーの内なる感覚だが、するとしないとでは大違い。例えるならシートのイン側に尻で荷重する感覚(右コーナーなら右の尻、左コーナーなら左の尻)。腰をずらさなくても構わないが、このとき腰をイン側に少しでもずらすことで、重心移動の効果を明確に感じ取ることができるはず。
■(3)一定に長く「ブレーキング」
コーナリングにおけるブレーキングは「曲がるため」であり、そのコーナーに見合った速度に調整するのが目的。急制動のように「強く短く」かけるのではなく「一定に長く」かけるのがコツ。腰をイン側にオフセットした場合は、外足全体(ヒザと内もも、あるいはヒール)や内ヒザでタンクまわりをしっかりホールドすることで減速Gに耐える。下半身が決まれば腕の力を抜いて上体もリラックスできる。
■(4)減速してから「シフトダウン」
ことコーナー進入においては、あくまでもブレーキが先で減速してからシフトダウンが定石。ギアの選択はコーナー進入速度によって変わる。たまに順序が逆の人も見かけるが、速度が高いとシフトダウン時にエンジン回転数が上がりすぎて後輪が跳ねたりロックしたりして危険なことも。シフトダウンの方法はブリッピング(アクセルを煽りながら)で回転数を合わせても、半クラでエンブレを逃がしてもオーケーだ。
■(5)コーナーに向けて「ステップイン」
ブレーキングで溜めたエネルギーを解放するイメージでコーナーに向けてバイクを倒し込んでいく。ライダー自ら一歩踏み出していく意味で「ステップイン」と呼んでいる。ブレーキレバーを穏やかに緩めつつバイクを倒し込んでいく。キッカケ作りの方法はいろいろで写真は説明用にあえて大きく動作しているが、ゆったりペースならイン側にわずかに上体を傾けて目線を向けるだけで自然にバイクはコーナーに向かっていくはずだ。