現代のバイクシーンでレーサーレプリカという言葉は死語になりつつありますが、40代後半ライダーにとっては「青春アゲイン」な魔法の言葉です。
世界最高峰のバイクレースが「WGP500」と呼ばれていたころ、私は中学生で、そこでガンガン飛ばしまくっていたフレディ・スペンサーというアメリカ人ライダーが好きでした。
彼はホンダチームのエースです。
いまでもアライ製のスペンサーレプリカヘルメットが出ていて、私はそれを被っています。
ホンダの2ストレーサーは当初「NS」といい、それを進化させた「NSR」が出たとき、最初に乗ったのがスペンサーです(スペンサーはNS500にも乗っていました)。
私の1989年型のNSR250Rは、厳密にはスペンサーの後輩のワイン・ガードナーのレプリカだと思いますが、私的には「NSR250Rはスペンサーレプリカ」でいいのです。
なぜならスペンサーは、ボクシング界のタイソン、アマレス界のカレリン、野球界のイチローのように、最もよい年齢で最も高いモチベーションを持っていたときの、その分野での圧倒的世界一だからです。
当時のWGP500のニュースは、スペンサーが負けたことが大ニュースでした。そうです、2試合連続無安打が大々的に報じられた最盛期のイチローと同じです。
イチローが軽くヒットを出すように、スペンサーは簡単にスタートして簡単にトップでゴールしていました。
そしてスペンサーが登場する前のWGP500は、ピュアスポーツだったような気がします。商売っ気がなくていさぎよかったのですが、マニアックな感じで、バイクを知ったばかりの中学生の私にはとっつきにくかった印象があります。
ところがスタイルがスマートなスペンサーと、ホンダのポップなトリコロールカラー(青、赤、白の3色)のNS500と、バイク雑誌でのわかりやすい解説が三位一体となって登場したことで、WGPは一気に華やかになったような気がします。
今風にいえば、スペンサーというヒーローが登場したことでWGPが「魅力あるコンテンツに生まれ変わった」となるのでしょうか。
憧れの人と同じデザインのヘルメットを被って、憧れの人が乗っていたレーサーにゆかりがあるバイクを買うことこそ、レプリカを消費することの醍醐味です。
これってまったく、コスプレと同じだと思います。