ヤマハ発動機のオートバイ組立工場で今春より自動搬送車(AGV)を活用した「AGVバイパス方式」という生産システムが稼働している。これは従来のコンベア方式に代わるもので、車両を載せたAGVが時には列を成して、時には列から外れて定められた工程に自ら移動し、組立を行うというもの。このような生産 DX が、多品種少量生産への対応や働き方改革・省エネ等にも効果を発揮しているという。
~135台の自動搬送車を活用し、独自の生産システム「AGVバイパス方式」を確立~
静岡県磐田市の本社オートバイ組立工場。次々と出荷場に現れる完成車だけを目にすると、もしかしたら単純な流れ作業のように映るかもしれません。しかし、その規模感や変動する各種要件など極めて複雑な背景を理解すれば、この流れるような生産現場がいかに高度な計算によって成立しているかを実感できることでしょう。
「意外に思われる方も多いのですが、オートバイは実は季節商品です。その需要変動に合わせてたくさんの種類を少しずつ生産する”多品種少量生産”という難しさがあります」と話すのは、組立技術部の曽貝健司さん。
「同じものを常に同じ量つくるなら設備や仕組みをもっとシンプルにすることも可能ですが、そうはいきません。需要変動によってあるラインでは昼夜問わずフル稼働する一方、隣のラインは休眠中という非効率な状況が生まれてしまいます。また、作業者の皆さんにとっても変化が大きく、働きやすい職場ではありません」と続けます。
今春、本格的な稼働を開始した「AGVバイパス方式」は、従来のコンベア方式に代わる画期的な生産システムです。長年にわたる課題を解消する革新的な設備として、いま大きな期待を集めています。
この新方式の主役を担うのは、135台の特殊な自動搬送車(AGV)です。作業台を載せたAGVが複数連結することで組立ラインを形成し、時には列を成して、時には列から外れて工場内を走ります。
「たとえば、複数のモデルを同時に流す場合、各工程で組み付ける部品点数や作業時間がそれぞれ異なります」と、この独創的なシステムを開発した小林篤史さん。「前に並ぶ製品の工程に時間を要する時や、その工程自体が不要な場合、後ろに並ぶAGVはラインを外れて、定められた次の工程に自ら移動します。渋滞路を外れて目的地まで直行するという意味で、バイパス方式と呼んでいます」(同)
それだけではありません。車両を載せたAGVは、それぞれの製品、それぞれの工程、それぞれの作業者の情報を携えて移動します。向かった先々のツールや設備に組立情報の指示を出し、また作業者の身長や作業部位によってリフトの高さを最適化します。突然舞い込んでくる1台の生産要請にも応える対応力と汎用性で、多品種少量生産という長年の課題の解消に向けて大きな革新を起こしているのです。
「AGVバイパス方式は、生産の効率化だけでなく、働き方改革や省エネ等にも効果を発揮しています。今後、EV化をはじめ、モノづくりの多様化にも柔軟に対応する仕組みとして作り上げました」と曽貝さん。技術によって、人がいきいきと働くスマートファクトリー。その実現を目指して、組立工場の風景がいま大きく変わろうとしています。
この工場で扱うオートバイ部品の点数は、1日あたり約9,000種・計60万点にものぼります。一見、ダイナミックな印象を受ける組立工場ですが、実は繊細な計算の積み上げによって成り立っているのです。5年ほど前に8本あった常設の車体組立ラインは、「AGVバイパス方式」の導入等によって現在までに半減(4本)。生産DXの進捗によって、工場の姿は急速に様変わりしています。
ヤマハ発動機株式会社(2023年12月26日発行)