取材・写真・文 = 山下 剛
Pikes Peak International Hill Climb 2015
雲の上を目指すレースに挑む男たち
アメリカのモータースポーツ史上、2番目に長い歴史を持つレースであり、2862mのスタート地点から4301mの頂上を目指す登山レースである「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」。
今年、二輪クラスには3組の日本人がエントリーし、雲の上の頂上に向かってチャレンジしている。その模様を現地からレポートしよう。
■第2回 新井泰緒さん
マシン/KZ1000MK2
参戦クラス/Pikes Peak Challenge- UTV/Exhibition
テイスト・オブ・フリーランスで名を知られるライダーである新井泰緒さんは、昨年に続いて2度目のパイクスピーク参戦となる。今回の参戦について、新井さんは「100周年大会となる来年につなげたい」と語るが、パイクスピークというレースに魅了されているからこその参戦だ。なぜなら、今年の参戦にあたってはいくつかの困難があり、それを乗り越えてきたからだ。
昨年よりロサンゼルス港湾関係者たちがストライキを実施したため、アメリカ行きの船便が大幅に遅れる事態が起きた。そのため発送が早まったばかりか、船代が高騰したのだ。一時期は航空便や現地でレーシングマシンをレンタルすることも検討したが、ぎりぎりの段階になってストライキの問題が解決したことでマシンを送ることができた。とはいえ参戦にあたっての負担は大きく増えているのだが、新井さんはにっこりと微笑みながら「仕方ないことですから」とさらりと話す。
そうした経緯でのパイクスピークだが、もちろん今年の目標はある。
「1秒でもいいから10分を切りたいですね」
パイクスピークは約20kmの登山道で行われる。レースウィークは1週間あり、練習と予選が4日間、決勝レースが1日と計5日間も走行日数があるものの、コース全体を通して走れるのは決勝レースのみ。したがってチャンスは1回だけで、新井さんが昨年残したタイムは11分33秒613だ。目標を達成するには34秒もタイムを短縮しなければならない。
しかし昨年も新井さんの走りを見てきた筆者から見て、大きなトラブルがない限り、目標達成は不可能ではなく、現実的なものに思える。なぜなら今年のマシンの完成度、チームメンバーの結束力とメカニックの実力、そして新井さんのコースに対する習熟度とレースに対する親しみが、それを容易にしているからだ。
「練習走行の初日は、路面がダスティで滑りやすかったですけど、マシンの仕上がりは上々ですし、久しぶりにバイクを走らせるのが楽しかったですね(笑)」
今回、新井さんのKZ1000MK2は、エンジンのボアアップとクロスミッション化、足まわりの軽量化などでチューニングを施している。1速まで落とすコーナーも多いコースだけに、ボアアップによる低回転域でのトルク増大は走りやすさにつながっているようだ。
ミッションについても同様で、さらにドライブスプロケットを変更しつつ、ギア比の最適化をこなしながら練習走行を重ねている。2日目を終えた現在は、キャブレターのセッティングをさらに詰めているところで、これが決まれば34秒の短縮はさらに現実のものとなるだろう。
昨年はマン島TTのトップライダーであるガイ・マーチンが同クラスに参戦。惜しくも1秒差で2位となったが、やはり目標のひとつは優勝だ。クラス優勝はもちろんだが、2輪総合優勝も狙っていきたい、と新井さんは話す。
「今年はローランドサンズが出てるので、それと一緒に走れるのが楽しみなんです」
ビクトリーとローランドサンズがタッグを組み、パイクスピークに向けてスペシャルマシンを製作し、このレースのトップライダー、ドン・カネットが走らせている。事前の練習走行でクラッシュしたものの、きっちりと修復して練習走行に参加している。
「やっぱりモチベーションが上がりますよね」
新井さんにとって、勝利は大切なものではあるが、それ以上に大切なことは「レースを楽しむ」ことだ。ただ完走して結果を出すだけなら、わざわざアメリカに来てまでレースをする意味はない。ドン・カネットが新井さんの実力をさらに引き出すのではないかと期待が高まる。
ブルーサンダース・岩野慶之さんを中心に、スピードショップイトウ・伊藤晶雄さんやMG-NEST・椎根隆慶さん、ZAPレーシング・長谷川健次さんら、Z系チューニングを得意とするメカニックたちが集い、新井さんをサポートしながらパイクスピークというレースを楽しんでいる。
パイクスピークの練習走行は夜明けと同時にスタートするため、走行準備は深夜から行われる。冷え込みもきつい中での準備は苦労もあるが、これもパイクスピークならではの魅力のひとつだ。
練習走行2日目、ミドルセクションを走る新井さん。エンジンのボアアップ、ミッションのクロス化、ホイールの軽量化などが功を奏しており、マシンのセットアップも日々順調に仕上がっている。
エンジンはボアを1mm広げることでパワーアップを図った。さらにミッションをクロス化することで急峻な上りが連続するパイクスピークに合わせたギア比を追求した。
ブレーキローターはサンスター製フローティングタイプに変更。大径化して効きを向上させるとともに軽量化。
ステム変更に伴い、フロントフォークは36Φから38Φへと大径化した。
オフセット量を減らし、安定性を高めるためにステアリングステムを変更。剛性も高めた。
ホイールは軽さを求め、前後ともに18インチのままJB-POWER製MAGUTANに換装。
クロスミッション化に伴って、練習走行を重ねながらギア比のセットアップも行っている。ドライブスプロケットを複数テストして最適化を図りつつ決勝レースに備えている。
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