取材・写真・文 = 山下 剛
Pikes Peak International Hill Climb 2015
雲の上を目指すレースに挑む男たち
アメリカのモータースポーツ史上、2番目に長い歴史を持つレースであり、2862mのスタート地点から4301mの頂上を目指す登山レースである「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」。
今年、二輪クラスには3組の日本人がエントリーし、雲の上の頂上に向かってチャレンジしている。その模様を現地からレポートしよう。
■第1回 岸本ヨシヒロさん
マシン/韋駄天ZERO
参戦クラス/Electric- Electric Modified
ニュージーランドのロイヤル・ホールデン・メモリアルレース、マン島TT、そしてパイクスピーク。岸本さんは毎年、海外の公道レースに挑み続けており、昨年につづいて今年もパイクスピークに参戦している。
岸本さんは「チーム未来」を主宰し、マシンを自ら設計・製作しての挑戦だ。さらに今年はマシンを新たに製作しての挑戦である。その動機について岸本さんはこう語る。
「TT零13改でできることはやり尽くした感があるのです。改良を続けてきて、その性能は限界といえるところまで高めることができました。だからこそ今回、マシンをゼロから作ることで新たな境地で挑戦をしたいと考えたのです」
新たに開発した「韋駄天ZERO」は、ホンダ製レーシングマシン「NSF250R」をベースとし、ゼロモーターサイクル製モーターを搭載。バッテリーとコントロールユニットをカスタマイズし、モーターの性能を極限まで引き出すべくチューンアップを施している。
「レース参戦までになんとか完成させましたが、細かい仕上げ(セッティング)はまだ残っています。練習走行と予選の間で、それをどこまで煮詰めていけるかが課題です」
課題となっているのはモーターの熱問題だ。ノーマルのユニットでは限界よりかなり低い段階でリミッターが作動してしまい、レースでの使用は困難だ。そのためモーターが壊れず作動を続けるギリギリのところを探っているというのだ。
「韋駄天ZEROを開発しようと思ったのには、軽いマシンを作りたかったから、というのもあります。ベースマシンをNSFにしたのはそのためでです」
エンジンやミッションをモーターとバッテリーに換装された状態でも、車重は100kg強に収まっているという。
「今日が初めての練習走行でしたが、ハンドリングの軽さとモーター出力の高さで、走るのが楽しくなるほどでした(笑)」
本日行われたのは「ボトム」と呼ばれるセクションでの練習走行で、スタート地点からグレンコーブというポイントまでの約10kmの区間。針葉樹林帯の中を高速コーナーが連続するエリアだ。
「路面がほこりっぽくて滑りやすく、様子見しながらの走りでしたが、滑り出しは上々といった感じです。明日以降の練習走行と予選、そして決勝についても不安要素はあまりないですね」
目標は完走、そしてクラス優勝と語る。また、岸本さんは8月にはマンクスGP(マン島で行われる公道レース)への参戦も決定しており、挑戦はまだまだ続く。
「自分で作った電動バイクでマン島TTを走りたい。マンクスGP参戦はそのための一歩です。パイクスピークはそれとは別の線上にあるもうひとつの挑戦です。まずは日曜日の決勝レースに向けて、ひとつひとつ課題をクリアしていくことに集中したいです」
さらなる未来のための挑戦、それが岸本さんにとってのパイクスピーク。決勝レースは6月28日(日)午前8時(日本時間28日23時)からスタートする。
チーム未来は3人体制。左から代表であり監督でもあり、そしてライダーである岸本ヨシヒロさん。メカニックであり、普段は航空機開発に従事している山内智裕さん。岸本さんの妻でありメカニックを担当するアッコさん。
宿泊しているモーテルのガレージがピット。点検整備、そしてチューニングとセッティングで、毎日夜まで作業が続けられている。
今年初の練習走行直前のピット。パイクスピークの練習走行は夜明けとともにはじまるため、走行準備はまだ真っ暗な午前3時頃からスタートする。
順調に練習走行をこなす岸本さんと韋駄天ZERO。パイクスピークは有料観光道路を閉鎖して行われるが、その制限速度は時速10~25マイルと非常に低い山岳道路だ。
新たに開発された「韋駄天ZERO」。NSF250Rをベースマシンとしており、車重は100kg強と非常に軽い車体に仕上がっている。
ブレーキは前後ともにニッシン製レーシングキャリパーを装着。
前後ともにホイールはアクティブ製マグネシウム鍛造「イグザクト」を装着。リアアクスルシャフトはチタン製に換装している。
ゴールドアルマイトも美しいステップはベビーフェイス製。
モーターはゼロモーターサイクル製だが、熱対策のためコントローラーはセブコン製に換装している。
通常のバイクのヘッドライトの位置には車載カメラが搭載される。
データ記録と各種セッティング変更のためタブレットを車載する。電動バイクらしいパーツのひとつだ。
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