小平晴史 = 文/取材協力 =ヤマハ発動機
モトGPチャンピオンを獲得した2008シーズン。ヤマハ発動機は全日本選手権でも、ロードレース、モトクロス、トライアルの三冠を獲得した。ヤマハが国内最高峰クラスの3部門でタイトルを総ナメにしたのは、1980年に国際A級クラスが設定されてから初めてのこと。
注目のロードレースJSBクラスでは、YSPプレストレーシングの中須賀克之選手が、モデルチェンジを目前に控えたYZF-R1に鞭打って、1999年の吉川和多留選手以来、実に9年ぶりとなる全日本王者を獲得した。
関係者が招かれた3冠獲得記念パーティで、チャンピオンチームをリードしたチームマネージャー氏は、こんな話を聞かせてくれた。
「我々は、チャンピオンシップから見放されていた9年間、常に勝つことだけをイメージしてきました。運や才能だけでは勝てません。強い情熱を持ち、参戦するたびにテーマを持って上を目指していくからこそ道が開けるのです。そして、狙って勝ちにいったからこそ、勝利の喜びがそのまま次への原動力になります。もちろん来年も勝ちに行きますよ!」
ベテランが目を輝かせて語ったのは、勝利を掴んだ者だけが発することのできる、希望にあふれた力強い言葉だった。
「感動創造企業」というヤマハ発動機が掲げるスローガンは、優れた製品を作り出してユーザーに感動を与えるだけでなく、企業活動全てを通じて、関わる人たちに感動を与えることを目指す企業姿勢を表しているという。世界的な不況が叫ばれている今、バイク業界も例外ではない。世界的なレベルで言うと、今回ヤマハ発動機が国内で獲得した栄冠は、もしかすると小さなものかもしれない。しかし、それによってもたらされた感動が、単にレース業界や企業内の活力となるだけでなく、水面に波紋が広がるように人から人へ伝わって、業界全体が前に進むための力になることを信じたい。
【1】モトクロスの成田亮選手は2年連続、ロードレースの中須賀克之選手は初の栄冠、そしてトライアルの黒山健一選手は1年ぶりのチャンピオン獲得となった。レースではマシンやライダーのパフォーマンスばかりに目がいきがちだが、チャンピオンシップともなればチームの総合力が問われるもの。ヤマハ発動機全体の勢いが、そこに現れているように思える。
【2】チャンピオンマシン試乗会も行われた。世界耐久選手権2年連続チャンピオンの北川圭一さんによると、雪の影響で、シーズン中に見られた高い旋回性は確認できなかった。しかし、お世辞にも基本設計が新しいとは言えないマシンの力だけでは、ライバルを蹴散らせないのはいずれにしろ事実。試乗を通して、チームの総合力を再確認することになった。