バイク駐車場はなぜ増えないのか

掲載日: 2011年04月05日(火) 更新日: 2013年12月11日(水)
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この記事は2011年4月5日当時の情報に基づいて制作されています。

山下 剛 = 取材・文
初出誌/BMW BIKES 54号(2011年3月15日発売)

地獄の取締りから4年
バイク駐車問題の今

二輪専門誌が表紙にキャンペーンロゴマークをつけるなど、バイク業界全体を震撼させたバイク駐車問題だが近頃はあまり話題にのぼらなくなっている。
それは問題が解決されたからだろうか、それとも理由は他にあるのだろうか。
警視庁をはじめとした行政、そして民間駐車場業者などに取材をし、バイク駐車問題の現状を探った。

バイク駐車場はなぜ増えないのか

2006年(平成18年)6月に道交法が改正され、民間の駐車監視員が違法駐車を取り締まるようになり、翌年のバイクの違法駐車取締件数は全国で52万件、東京都内だけでも25万件を数えた。これは道交法改正前と比較して約5倍という異常な数字である。

バイクの違法駐車取締り件数がこれほど増えた理由は、「停めるべき場所がないのに、取締りだけが行われた結果」だ。自動車と自転車は、それぞれ駐車場法と自転車法という法律によって、各自治体に対して駐車場整備が義務づけられていたが、バイクはいずれからも除外されていたため、法的に正しく停めるための方法も手段もなかったのだ。それまでバイクの違法駐車の取締りが慣例的に行われていなかったのはそのためである。

そうした法的な矛盾状態を解消するため、同年11月には駐車場法にもバイクが規定された。これによってバイク駐車場は確保されたと思われたが、そううまくはいかなかった。

第一に新規にバイク駐車場を作ろうとしても都市部にはそのための土地が少ない。第二に駐車場法で規定されたことによりバイク駐車場に対する基準(駐車枠の大きさなど)が設けられたため、既存駐車場を改造してバイク用にするためにも費用がかかる。第三に費用をかけて整備しても採算が合わないリスクがある、といったところがその理由だ。さらに「停車中に倒れて他の車などと接触する」「盗難に対する問題」「騒音がうるさい」「たむろされる可能性がある」など、バイクユーザーから見れば偏見ともとれるような理由によって、バイク駐車場の整備は進まない。

しかしこれを簡単にいえば、都市部に大型トラック用の駐車場がほとんどないことと理屈は同じといえる。

取締件数の減少と現状の違い

それから5年、バイクの違法駐車取締件数は激減している。グラフ① は東京都内のみのデータだが、ピークとなっているのは道交法が改正された06年の25万件で、その後は著しく減少傾向となっており、2010年では道交法改正前とほぼ同じ5万件に満たない数字にまで落ち着いている。

こうしてみると06~07年あたりの地獄のごとき異常事態は脱しており、バイク駐車問題は大きな峠を越えように思える。しかし、いくら法律が改正されたとはいえ、この数字の変化の激しさは常軌を逸している。では07年以降の取締件数減少には、どんな理由があるのかといえば、

(1)駐車場法にバイクが規定されたことでバイク駐車場が増えた

(2)激しい取締りのため都市部のバイク利用者が減った

(3)同じ理由でバイクの所有者が減った

(4)取締りが緩和された

(5)利用者各自が取り締まられない場所を見つけた

といったところが考えられるだろう。警視庁による取締件数は減少していることをこのグラフは示しているが、実際の現場ではどうなのだろうか。都内にあるバイク便事業者である「By-Q」に話を聞いてみた。

――バイク便にとって駐車問題は死活問題だと思います。それに対してどのような対策をしたのでしょう?

「緊急配達中と書いたプレートを作り、停車中のバイクに貼りつけてみましたが効果がなく、容赦なくシール(放置駐車標)を貼られました。とくに銀座・築地・汐留あたりは取締りが厳しく、そこにだけは行きたくないと訴えるライダーもいました。もうひとつの対策としては駐車できそうな場所や駐車できるビルなどの情報をデータベース化し、ライダーに提供することでした。当時からパーキング・メーターも利用していましたし(編集部註=パーキング・メーターのバイク利用について、当時の警視庁は「利用をご遠慮ください」としていた。もちろんバイクがパーキング・メーターを使うことは違法ではなく、合法である)、ライダー各自が安全そうな場所を見つけていましたが、地区によってはまったくダメでした」

――効果的な対策はなかった、と。

「定期的に集荷や配達のあるお客様のところでは、バイクを停める場所を確保していただけるように交渉しました。自社ビルのお客様の場合は比較的うまく行きましたが、テナントとして入居しているところはビル管理会社に当たってみても『スタンドが床(大理石など)を傷つける』とか『転倒や事故が心配』という理由で断られるケースがほとんどでした。ビルの警備員とは『停めさせてくれ』『規則だからダメだ』とケンカになることも多かったです。それでも少しずつバイク便用の駐車スペースを確保するビルも増えてきて状況はマシになりましたが、だいたい7割は停められないという印象ですね。

――なるほど。それから5年経ったわけですが、現状はどうですか?

「バイク便の出入が頻繁なビルでは、駐車スペースを確保してくださるところが増えてきました。しかしそれもほんの一部です。だいぶマシになったというライダーもいれば、変わっていないというライダーもいます。私の印象としては、停めていても大丈夫という感じが強くなりましたが、不安は拭えません。先ほど話した銀座周辺はいまでも取締り重点区域ですから、そこへ行くときは今でも躊躇します。地域によってもだいぶ違いますね」

――バイク用駐車場も増えましたが、いかがでしょうか。

「うーん、あってほしい場所にありませんし、数も少なすぎます。しかしたとえそれが満たされたとしても、駐車料金を考えると毎回使うことは難しい。ですから取締りを覚悟でバイクを停めて集配することもありますし、結果として取り締まられてしまうこともあります。経験則から安全な場所を見つけて覚えておくこと、停める際に周囲の取締り状況を確認することなども重要になっています」

話をまとめると、バイク便にとってバイク専用駐車場の増加は状況の改善になっておらず、むしろ四輪用スペースなどを転用したケース、および取締り重点区域の把握が状況改善に役立っているようだ。

バイク駐車場は劇的に増えたが…

すると、バイク専用駐車場は問題解決に役立っていないのだろうか。これについてはまず東京都道路整備保全公社によるバイク駐車場台数推移のグラフ②を見てもらいたい。

06年以降、都内のバイク駐車場台数は1.5~2倍のペースで増加しており、10年には都内に9,352台分に達している。これはバイク駐車場検索サイト「s-parkfor riders」に登録されている件数で、実際はこれ以上の台数分が確保されていると考えられる。

しかし同年の違法駐車取締件数は5万件弱だから、取り締られたバイクがすべて駐車場を利用したとしても、5台に1台しか駐車場を利用できないことになる。

もっともこれは甘い計算で、そもそもバイク用駐車場にいつでも停められるとは限らない。東京都道路整備保全公社によれば、公社管理のバイク駐車場における修正回転率(24時間のうち何時間利用されているかを示す数値)は、約2.5~13となっている。数字の範囲が広いのは場所によって回転率に大きな差があるからだ。渋谷や新宿といった場所はその土地柄のため「日中はほとんど空きがない」(渋谷区土木部管理課)という状態が続いており、区内に75ケ所、1,966台分の駐車場を確保する渋谷区内でも、通勤や買い物客が増える正午前後は順番待ちの列ができるのが日常的だという。

都内を中心にバイク駐車場事業を展開する民間業者によると、「利用率は年々上昇傾向にある。料金の値下げや最初の30分間を無料にするなどで認知度や利便性が上がったことも要因。しかし一律に利用率が高いわけではなく、場所による格差は大きい」という。先の修正回転率を単純に平均しても7.75となるから、日中は都内にあるほとんどのバイク駐車場が満車に近い状態にあるといって過言ではないだろう。となると違法駐車取締り件数が示す約5万件は、事実上の「駐車場難民」だ。

バイク駐車場は確実に増加したし、取締件数だけを見れば沈静化したように思える。しかし、停めたくても停める場所がなく、取り締まられる一方の不条理な現状は未だ続いている。

解決に向けた方策とは

では、この状況から解決へと向かわせるには何が必要なのだろうか。考えられるのは、

(A)バイク駐車場をもっと増やす

(B)取締りを緩和する

この二点に集約されるだろう。まずAについてだが、前述したような理由のため新たにバイク駐車場を作るのは難しい状況だ。都内でもっともバイク駐車問題に取り組んでいる渋谷区では05年頃から整備を進めてきたが、「現在も新規の整備は続けているが、土地がない」(渋谷区土木部管理課)という。また、東京都ではバイク駐車場整備に当たっては補助金制度を設けているが、民間業者であるパーク王の担当者は「維持運営については料金設定を高くできない事情もあって収支は合わない。現状は赤字状態だが業界活性化のためと考え、整備と維持を続けている」と話す。また、バイク駐車場の需要は取締りも含めた行政の取り組みが重要なバランスとなっているのだという。つまり取締りが緩い地域では、駐車場の需要が発生しないからだ。

ではバイク駐車場をこれ以上増やすことはできないのかといえば、そんなことはない。それは四輪用の駐車枠にバイクを停められるようにすることだ。枠内に線を引き、2~3台のバイクを停められるようにすればさらに効率がいい。ただしこの方法は有人管理の駐車場に限られてしまうが、これが受け入れられるようになるだけでも格段に環境は変わってくる。そのためには駐車場運営者の偏見ともいえる「転倒や事故の不安」を払拭することだが、それは私たちユーザーができることのひとつだ。

その方法とは、週末の高速道路のPAやSAでバイク駐車場が溢れた場合、路肩やゼブラゾーンに駐車するのではなく、四輪駐車枠に複数台のバイクを停めることだ。軽自動車と同料金を支払っているのだから、その権利はもちろんある。「バイク駐車場が満車で溢れたときには、四輪用枠を有効的に利用する」という習慣を、自然と世間に馴染ませていくのだ。「なんだそんなことか」と思うかもしれないが、四輪ドライバーたちにその光景を見せ続け、認めさせていくことで意識は変わってくるはずだ。

Bの取締り緩和については、以前のように「慣例的に違法駐車を取り締まらない」という方法もあるが、現場で取り締まるか否かを判断されるようでは不安を払拭することはできない。この機会にバイク駐車に対して、ある一定の猶予を示すルールを作っておくべきだろう。その端緒となりそうなのが、警察庁交通局から警察庁交通部長と各道府県警察本部長宛に平成22年3月4日付けで通達された「自動二輪車に係る駐車対策等の推進について」と題された文書だ。これには、

(a)地方公共団体、道路管理者、民間事業者等に対してバイク駐車場整備の働きかけるとともにそのために必要な協力をすること

(b)時間制限駐車区間規制について検討すること

(c)駐車禁止規制を解除し、または自動二輪車等を駐車禁止規制の対象から除外した上で駐車方法を指定すること

(d)地域の意見や状況に合わせた取締りの推進と取締りガイドラインの見直し

といった内容が記されている。

この通達の約1週間前の2月26日、衆院予算委員会・第一分科会において中井洽国家公安委員長に対して、佐藤茂樹衆院議員(公明党)がバイク駐車問題について厳しすぎる取締り、パーキング・チケット手数料が高いことなどの問題点を指摘している。通達はそれを受けてのものと思われる。

東京・表参道のパーキング・チケットはこの通達の4ヶ月前に運用開始されているものの、簡単に解釈すれば「取締り方法を見直せ」と書かれたこの通達を見る限り、警察庁はバイク違法駐車取締りが適切ではなかったことを認識している。今年2月1日より表参道パーキング・チケットの手数料が60分300円から60分100円に改訂されたことも、その証左のひとつといえるだろう。

さて、通達に明記された事項のうち、(c)に書かれた「自動二輪車を駐車禁止規制の対象から除外」という方法が、今後の実施に期待が高まる方法だ。これは駐車禁止の規制標識の下に「二輪を除く」と補助標識をつけるだけだからコストもそれほどかからない。しかし警察庁は安全を重視するあまりかこの方法については実施に至っていないようだ。しかしパーキング・チケットの利用時間制限が60分である限り問題は根本的に解決しないし、このまま問題が放置されればいずれ実施しなければならなくなるはずだ。

これについても私たちユーザーや業界団体、そしてメディアが声を出して、各公安委員会と警察に訴えていくことだ。パーキング・チケットの設置や料金改訂だけでは、まだまだ問題は解決に至っていない。その認識を忘れてはいけないし、これからも訴えていかない限り、バイク駐車問題は永遠の足かせとなってバイクの生命線を絶つことになる。

(バイクブロス・マガジンズ編集部)

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