バイクブロス×マガジンズ編集部 =文
10月10日に行われたMotoGP第15戦マレーシアグランプリ決勝レース。ここで2輪ロードレースの最高峰クラスに新たなチャンピオンが誕生した。フィアット・ヤマハのホルヘ・ロレンソ選手だ。
10月3日にツインリンクもてぎにて決勝レースが行われた日本グランプリでは、ロレンソ選手とレプソル・ホンダのダニ・ペドロサ選手のポイント差が詰まっていたこともあり、2人の熾烈なレース展開が期待されていたが、蓋を開けてみればペドロサ選手は負傷欠場。実質的にはペドロサ選手がフリー走行で転倒してしまった瞬間にロレンソ選手のチャンピオンが決定していたとも言えるが、MotoGP125ccクラスに参戦を開始してから僅か8年で最高峰MotoGPクラスのチャンピオンまで登り詰めた非凡なる才能には驚嘆せざるを得ない。
特に注目すべきは125cc、250ccクラスでも際立っていたロレンソ選手の冷徹なレース運び。今季も3戦を残してチャンピオンを決めた要因のひとつとして、ロレンソ選手が1戦もリタイアせず、ほとんどのレースで表彰台に上がっているということがあげられる。また、アラゴングランプリ、日本グランプリと連戦で今季ワーストの4位が続いたのはライバルの戦闘力アップが原因のひとつではあるが、ロレンソ選手は確実にチャンピオンシップを獲得するため無理をしなかったと考えられる。
その日本グランプリで象徴的なシーンがあった。ドゥカティのケーシー・ストーナー選手の独走で比較的落ち着いた展開となってしまった決勝レールのラスト2ラップ、観客を楽しませることを重視するチームメイトのバレンティーノ・ロッシ選手が「もっとレースを楽しもうぜ!」と言わんばかりに、カウルを何度もぶつけ合う激しいバトルを仕掛けてきたが、それに対してロレンソ選手はチームやメーカーのタイトルのことも考慮した結果、表彰台獲得に固執せず明らかにラインを譲った。熱くならざるを得ないレース中でも、全体を俯瞰して自分が何をすべきかを決断できる冷静な判断力。今季何度も見ることができた勝利後のド派手なパフォーマンスとは裏腹に、実にクレバーなチャンピオンの誕生である。
ロレンソ選手とは対象的に、レース中でも無邪気な一面が顔を出すチームメイトのロッシ選手は来季ドゥカティへの移籍が決まっている。両選手とも、他を寄せ付けない優れたライディングテクニックを持っていることは言うまでもないが、抜群のスター性を持つロッシ選手と、若さに似合わずクールなレース展開ができるロレンソ選手。2人が別々のチームに分かれてバトルを展開すると考えただけでもワクワクしてくる。今季はロッシ選手の大怪我でややチャンピオンシップへの関心も薄れた感があったMotoGPだが、来季は実に興味深いシーズンとなりそうだ。