小平晴史 = 文/高倉康 = 写真
カーデザイナーのジウジアーロやガンディーニと並び称されるモーターサイクルデザインの巨匠、マッシモ・タンブリーニが勇退することになった。名声とは裏腹に、表舞台にほとんど出ることのなかった氏だが、既に70歳を目前、後進に道を譲ろうと思ってもおかしくない。
タンブリーニ氏は、ビモータ社の創立メンバーの一人で、1961年当初から非凡な才能を発揮。美しさと機能性を見事に融合したデザインでビモータブランドを確立した。
ドゥカティのデザインを手がけるようになってからは、750パゾに続いて1994年に登場した916を手がけた。916のデザインはその後8年間引き継がれたが、極端なまでのスラントノーズとシート下に配置されたサイレンサーは、スーパースポーツモデルのトレンドに大きな影響を与えた。
かつてキャリアをスタートさせるきっかけを作ったMVアグスタを手がけるようになってからは、1999年に登場したF4やその後のブルターレといった、モーターサイクルのあり方を一新するハイグレードなプロダクトを手がけ、世界中に衝撃を与えた。氏のデザインは、ひたすら進化を続けるエキサイティングなスポーツバイクのあり方を際立たせるものであり、そこには、常に絶対的な美しさが表現されていた。世界中の口うるさいバイク好きが彼の作品を手放しで賞賛してきたのは、誰もが認めるところだ。
自身が所長を勤めるカジバリサーチセンターに在籍するのは今年いっぱい。タンブリーニ氏は、今後は他の工業製品を手がける意向を持っているという。しかし、もともと熱心なモーターサイクルフリークである氏のこと、ビジネスとは別に、もしかすると、どこかでひっそりと斬新なモーターサイクルを作るかもしれない。それが我々の眼に触れる機会は、ほぼ無いに等しいのだが…。
【1】【2】大胆で美しい曲線と、見えない部分にもこだわった緻密な作り。タンブリーニ氏は、モーターサイクルの美しさを際立たせることにかけて天才的な手腕を発揮した。彼の手がけた作品は、何年経っても色あせない。しかし実は、美しさだけでなく、機能的な面も同時に満たしているのである。美しさと機能の完全な融合がそこにある。
【3】ビモータ社をスタートさせたのは、MVアグスタに惹かれたのがきっかけだと言われている。その後、憧れのブランドでキャリアを終えるとは、なかなか粋な巡り合わせである。