取材・写真・文 = 山下 剛
Pikes Peak International Hill Climb 2015
雲の上を目指すレースに挑む男たち
アメリカのモータースポーツ史上、2番目に長い歴史を持つレースであり、2862mのスタート地点から4301mの頂上を目指す登山レースである「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」。
今年、二輪クラスには3組の日本人がエントリーし、雲の上の頂上に向かってチャレンジしている。その模様を現地からレポートしよう。
■第3回 渡辺正人さん
マシン/KUMANO Motorsport LCR-GSX-R1000
参戦クラス/Pikes Peak Challenge- Sidecar
サイドカークラスにエントリーしている渡辺正人さんは、今回が3度目のパイクスピーク参戦となる。2007年にはマン島TTの完走経験も持つ、日本を代表するサイドカードライバーだ。
パイクスピーク参戦にあたって、渡辺さんが語ったのは「50歳を目前にして、やり残したことをやりたい。そしてこの年齢からでも新たしいことにチャレンジしていけることを実証したい」ということだった。それから3年目を迎え、年齢を重ねて51歳となった今でもその思いに変わりはない。体力、精神力、ともに自分で限界を作らず、引き上げていくことに挑み続けている。
「マン島TT参戦は2007年、TTが100周年を迎えた大会でした。パイクスピークも来年、2016年に100周年を迎えます。どちらのレースの100周年にも参加したというサイドカードライバーは僕くらいでしょうから(笑)、ぜひとも来年も参加したいと思ってますし、今年はそのためにもいいステップを刻みたいですね」
そう話す渡辺さんだが、今回の目標は四つある。11分台を切るタイムを記録すること。クラス優勝を果たすこと。レコードタイムを出すこと。パッセンジャーを落とさないこと。
「ドライバーにとってもっとも重要なことが、パッセンジャーを落とさないことです。もちろん常に心がけていることですが、今回のパッセンジャーの栗原君は海外レースも公道レースも初体験ですので、いつもよりその点には注意しています」
渡辺さんにとっては3度目の挑戦となるパイクスピークだが、パッセンジャーは都度異なっている。バイクと違い、パッセンジャーとの呼吸がひとつになってこそ真価を発揮するサイドカーにとって、これはある意味でハンディキャップでもある。しかしだからこそ、渡辺さんはそれをもチャレンジのひとつとして捉え、目標に据えているのだ。
「昨年はいいペースで走りながらもゴールを目前にしてマシントラブルで止まってしまい、勝利もレコードタイムも逃してしまいました。目標を達成するのは来年でも遅くはありませんが、100周年大会に万全の体制で挑むためにも、目標をひとつでも達成して来年を迎えたいですね」
現在、レースウィークは中盤に突入しており、原稿執筆段階では明日が予選走行となる。これまで3回の練習走行をこなしながら、少しずつペースを上げ、パッセンジャーの栗原さんの習熟度を上げてきた。パッセンジャーの栗原亨さんはこう話す。
「初めての速度域はおもしろさもありますが怖さもあります。ただ足を引っ張るようなこともしたくはありませんし、できるかぎり自分の限界を引き上げていきたい。明日の予選でペースを引き上げて、いい体制で決勝に臨みたいです」
渡辺さんも首を負傷しており、体調は万全とはいえないなかでの挑戦だが、毎日コツコツとコース習熟を深め、パッセンジャーの限界を慎重に引き上げてきた。ドライバーとパッセンジャー、二人の呼吸をどこまで合わせることができるか、明日の予選がマイルストーンとなる。二人がどんなふうにパイクスピークを攻略していくか、その様子は追ってお伝えしたい。
渡辺さんが率いる「Rising Sun Racing」は3人体制。通訳からチームサポートまでこなすヘルパー・原田理史さん(写真左)、パッセンジャーの栗原亨さん(写真右)。マシンはサイドカーデザインの第一人者・熊野正人さんが開発したモノコック構造のF1マシンだ。
夜明け前のピットで走行準備をこなす。毎朝2時に起床し、3時にはピットを組み立ててマシンの最終整備にあたる。
現地でのマシン運搬には大型トラックをレンタルし、トランスポーターとして使用している。運搬時にはカウルを取り外し、タイダウンベルトを使って空中に固定している
宿泊しているモーテルのガレージでも整備をこなす。走行を終えた午前中にマシンの清掃、点検、給油を済ませる。日々欠かせないルーチンワークだ。
ボトムセクションの練習走行でスタートラインに並ぶ渡辺・栗原組。緊張の瞬間だが、歴戦をこなしてきた渡辺さんにとってはまさしく朝飯前か。
路面に浮いた砂をかき上げながらスタートしていく渡辺・栗原組。パイクスピークの路面は砂やホコリが多く、スリッピーなのが特徴である。
ミドルセクションを走行中のカット。標高3600m付近。雄大なロッキー山脈を背にして4300mのゴールを目指して駆け上がっていく。
アッパーセクションとよばれる標高4200m付近。森林限界を超えているため、巨大な岩が環境を支配する荒涼とした世界だ。酸素も薄いため、高地トレーニングも欠かせない。
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