【ホンダ・ヤマハ】原付一種市場での業務提携の検討を開始

掲載日: 2016年10月05日(水) 更新日: 2016年10月06日(木)
この記事は2016年10月5日当時の情報に基づいて制作されています。
取材・写真・文=バイクブロス・マガジンズ編集部

ホンダとヤマハが、国内原付市場に向けた車両の開発・生産において協業に向けた検討を開始すると発表した。2018年をめどに、ホンダのタクトやジョルノをベースとした原付スクーターをヤマハへOEM供給する予定のほか、50ccのビジネススクーターを両社で共同開発して、ホンダからヤマハへのOEM供給を検討するという。また、原付一種分野における電動二輪車についても、その基盤づくりを協業していくことも項目に入っており、電動二輪車については、同業他社からの声掛けも呼びかけた。

なお、この業務提携を視野に入れた検討開始のきっかけは、ヤマハからホンダへの提案だったという。厳しさを増す規制対応を個社で行うことが極めて厳しい状況となっており、メーカーとして共通の課題を抱えていたことから今回の発表となった。


本田技研工業株式会社 取締役 執行役員 二輪事業本部長 青山真二


Hondaとヤマハ発動機が原付一種領域における協業の検討を開始


■協業の検討開始の経緯について

改めましてみなさんこんにちは、ホンダの二輪事業を担当しております、青山でございます。

このたび、ヤマハ発動機さんとホンダとの間で日本の二輪車市場における原付一種領域における協業の検討を開始しました。具体的な検討内容については、ヤマハ発動機の渡部さんより説明していただきますが、まず私から、今回の協業の検討に至る市場環境の背景と狙いにつきましてお話しさせていただきます。

日本独自の最小排気量カテゴリーでございます第一種原動機付自転車。通称「原付一種」につきましては、日常における人々の便利な移動手段として長年、国内二輪車市場の中心を占めるカテゴリーでありました。

排気量50cc以下のエンジンを搭載し、私共のホンダ・スーパーカブのような利便性と経済性に優れた業務用のモデルや、あるいは、スタイリッシュで個性的なデザインの、ヤマハさんのジョグに代表されるモデルなど、さまざまなモデルが属する一台カテゴリーとなりました。

しかしながら、近年、軽自動車の販売の拡大。あるいは電動アシスト自転車の普及といった観点などで、近距離向けの移動手段の多様化といったことが起こり、原付一種の販売数は減少が続いておりまして、市場は縮小しているという局面にございます。

また、世界的に高まるCO2の排出量の削減といった取り組みにともなう排出ガス規制の強化。そして安全性向上を目的とした保安基準の強化などが今後予定されており、原付一種は取り組んでいく課題の多い、厳しい環境下にあると認識しております。

さらに将来に目を向けますと、世界的な流れとして、二輪車におきましても電動化は重要に要素になってまいります。このような環境の中で、原付一種にどのように取り組んでいくか研究を重ねていました。そんな中でヤマハ発動機さんよりご提案をいただきました。同じ課題認識を持つメーカー同士、議論を重ねていく中で分かったことは、使い勝手の良い身近な移動手段として、原付一種はまだまだポテンシャルがあるということでした。

高齢化が進む中で、地域内の近距離移動手段を必要としているお客様もいらっしゃいます。そうしたお客様により良い商品をご提供するという社会的な責任を、私たちは果たすべきであると考えおりました。そして、同時に、原付一種の電動化という、さらなる進化に向けた取り組みも重要な課題と認識しています。

これらの思いを両社で確認し、共同で取り組むことで、ビジネスの高効率化と併せて、原付一種の新たなステージに進むべく、協業に向けた業務提携の検討を開始することになりました。

実現に向けては、具体的に検討すべきことはまだまだ多くございます。今後、魅力的な原付一種商品を通じて、ユーザーの皆様の生活をより豊かなものにできるよう、日本の二輪車市場を盛り上げていきたいと思っています。今後も引き続きご支援をいただければ幸いです。


ヤマハ発動機株式会社 取締役 常務執行役員 MC事業本部長 渡部克明

■取り組みの内容について
ヤマハの渡部です。私からはヤマハ ホンダ、両社で協業を進めていく具体的な内容を説明していきます。協業内容は3項目です。一つ目はホンダさんが国内で販売されている、タクトおよびジョルノの二機種に関して、これらのモデルをベースに、ヤマハ独自デザインの50ccスクーターを、ホンダさんの熊本製作所で生産し、ヤマハにOEM供給していただくことを検討していきます。

両社間では、2017年の3月をめどに、正式契約を交わし、2018年の生産・販売開始を目標としてプロジェクトを進めてまいります。

二つ目ですが、現在、ホンダ・ヤマハの両社では、それぞれ、ベンリィ、ギアといったビジネススクーターを生産・販売しています。これらは、新聞配達や宅配など、まさに業務用に開発されたビジネススクーターです。今回、これらの次期モデルを共同で開発し、ホンダさんより、OEM供給をいただきます。それをそれぞれのブランドで販売していくということについても、検討してまいります。なお、このモデルにつきましては、今後予想される法規制の変更のタイミングに合わせて市場投入していきたいと検討しております。

最後に、三つ目ですが、こちらは原付一種クラスの電動二輪車についてです。これまで両社は環境問題について独自に技術開発を行い、各モデルを市場投入してまいりました。しかしながら、電動二輪車の普及には、至っておりません。電動二輪車の最大の課題は四つあります。ひとつは「航続距離が短い」、それと「充電時間が長い」、「登坂の走行性の問題」、「コスト」。この四つが課題です。この課題を満たした基盤づくりの共同を検討してまいります。

今朝、新聞報道がありましたが、この電動についての取り組みについてはちょっとニュアンスが違っているような気がしました。基盤づくりの協業を進めてたいということで考えております。

協業の成果につきまして、同業他社・異業種についても広く提案することで、電動化の普及に向けて取り組んでまいります。以上の3項目について力を合わせていきたいと考えております。

私たちは協業を通じて、お客様に身近な移動をより豊かにしていただきたいと考えています。

【質疑応答】


■今回の提携について、ヤマハからの提案ということだが提携の狙いを改めて教えてほしい。
●青山

減少傾向にある日本の原付一種市場と伝えたが、保有台数では、まだ600万台ほどの台数がある。そういう意味で利用されてるお客様はまだまだ多い。ただ、ここ数年来の市場減少の中で、両社ともにビジネス的な観点では極めて厳しい状況が続いていた。そういう意味で、今回の協業に向けた検討は、両社にメリットがある。また、600万台というお客様がいるという観点で、メーカーとして社会的な責任を全うする必要がある。さらに、電動化という部分については、早期の普及を目指し、一緒に協業できる領域を模索していきたいというのが狙いだ。
●渡部

提携に関しては、やはり50ccという商品を提供し続ける(事業継続)することが非常に厳しい状況だった。個社でEU4/EU5に対応することに難しさを感じていた。その中で、事業を継続するためにどうしたらいいかと検討した結果がホンダさんとの提携だった。また。国内の原付一種市場は、オートバイに乗り始めるエントリーカテゴリーでもあり、非常に重要な市場でもある。二輪市場拡大の最初の足がかりでもある原付一種市場で、商品を何とか残したいということで、今回の選択肢を選んだ。

■約40年前「HY戦争」という熾烈な販売競争があったが、しこりなどはないのか?
●青山
2社の間で「HY戦争」といった(公式の発表)表現は、実は一度もなかった。確かに1980年代初頭から両社は熾烈な販売競争をしていたのは事実だが、その時のしこりうんぬんというのは一切ない。むしろ、人々の生活の役に立つ二輪車を開発・提供しながら、大型二輪車も含めた二輪文化を育てていくことは、両社共通の目的事項だと思っており、そこは一緒に二輪車文化を育てていきたい。
●渡部
「HY戦争」といえば、私が入社した年が、ちょうど「HY戦争」に負けた年で、実は4月に入社して6月に減俸になった記憶がある……全員一律5%減俸だった。それが、私が入社した一番最初の「HY戦争」の印象だった。さて、青山さんもおっしゃったが、今、「HY戦争」のしこりというか、わだかまりがあるかというと、そういうことは決してない。

より良いものを市場が認めてくれるカタチで競争してくことが重要で、そのために「競争する領域」と「協力する領域」の棲み分けは必要だと思っている。50ccは周知の通り、日本と欧州しか市場がない。日本の中では、オートバイに入ってくる最初の領域であり、そこを守ってくれている販売店の販路ネットワークがある。そういう意味で、50ccを存続させたい気持ちが強く、今回のカタチとなった。

■日本の二輪車市場が縮小する中で50ccクラスの落ち込みが激しいのはなぜか?
●青山
二輪車として排気量が一番小さく、ゆえに価格が重要な要素になる。その中で、保安基準や排出ガス基準が厳しくなり、それに対応するために車両価格が上がっていった。その結果が市場減少につながっている。また、昨今始まったことではないが、原付一種ならではの規制(30キロ制限、二段階右折、二人乗りができないなど)も影響しているだろう。それは、原付一種ならではの規制がない、原付二種の市場が伸びていることからも推察できる。

また、原付一種だけではないが、駐車・駐輪への規制強化も影響している。もともと二輪は省スペースで機動性が高いことが乗り物としての特性だったが、そうしたメリットが阻害されている。加えて、緩和されつつあるとはいえ、1980年代から続いてきた高校における3ナイ運動などの影響もある。さらに、近距離移動手段としての軽自動車の普及や電動アシストサイクルの普及などもあり、こうした要素が原付一種の市場の落ち込み要因となっている。

■電動二輪車に関して「異業種も含めて提案していく」の異業種とは?また、電動二輪の海外展開は?

●青山
今現在決めている「異業種」は特にない。また、同業他社においては、ホンダとヤマハだけでなく、結果的に他のメーカーさんから話があれば、積極的に話をしていくことになると思っている。なお、今回は日本の原付一種市場ということで、海外展開については話をしていない。

■経緯について、どんなタイミングでどんなきっかけで?
●渡部
2016年2月にヤマハからホンダさんに提案をした。その後、半年かけて議論をしながら今回の発表に至った。なお、こうしたOEMは自動車でも普通にやっているもので、しこりもハードルもないと認識している。


■今後、それぞれの独自性をどこで出すか、どこで戦うか?

●渡部

基本的に、両社とも世界で商売をしている。そのため、すべての領域でガチンコで戦う必要はない。国内50cc市場については協業ということ。独自性を出すのは、いわゆる高排気量に関しては性能、燃費、乗り方、デザインで競争してきちんと個性を出していく。
●青山
なお、今回は販売面については協業ではないので、誤解なきようお願いしたい。

■原付一種以外の協業の拡大はあるのか?
●青山
協業の領域は原付一種に限っているのでそれ以外ではない。したがって、領域の拡大はない。

■協業によって両社の工場のオペレーションはどのような変化があるのか?
●青山
まだこれから検討していくので具体的な数字はない。熊本製作所で生産することでのスケールメリットは出てくると予想できるが、具体的な数字はまだない。

●渡部
ヤマハは、現在、50ccは台湾で生産している。台湾の生産量が約35万台。そのうちの一部(4~5万)くらいのインパクトがあると考えている。これは我々の中で十分吸収できる影響度と理解している。

(バイクブロス・マガジンズ編集部)

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