【ヤマハ】遂に公道へ。スポーツできる3輪モデル「NIKEN」発表会レポ。片側2本のフォークの理由も明らかに。

掲載日: 2018年09月13日(木) 更新日: 2018年09月13日(木)
この記事は2018年9月13日当時の情報に基づいて制作されています。

2018年9月13日にヤマハは都内で会見を開き、3輪スポーツバイク「NIKEN(ナイケン)」の発売を発表。本日より予約を開始した。受注生産となるNIKENの価格は178万2000円(税込)で国内販売計画は400台だ。

かねてよりヤマハはLMW(Leaning Multi Wheel:リーンニング・マルチ・ホイール)テクノロジーと称した独自技術を用いた3輪バイクの開発を進めてきた。LMWとは、一般的なモーターサイクルのようにリーン(傾く)するフロント2輪を持つヤマハ3輪モデルの総称で(ヤマハの商標登録)、これまで原付2種のTricity(トリシティ)、さらに軽2輪モデルのTricity155でもLMWテクノロジーを用いて、市販バイクとして世界中で販売されている。この日の会見ではヤマハ発動機の日高社長も登壇し、ヤマハが打ち出す新しいモーターサイクルに対する自信も覗かせた。

<写真:ヤマハ提供>プレス陣に配布された資料。写真はNIKENを操る日高社長。

今回のNIKENは、シティコミューターとしてのキャラクターを持つTricityシリーズとは異なり、スポーツを楽しめるモーターサイクルの新しい形として登場した。フロント周りにはNIKENのために専用開発した新ステアリング機構を採用し、滑らかな旋回性とともに安定感を実現したという。その肝となっているのは、「LMWアッカーマン・ジオメトリ」と呼ばれるヤマハ独自の設計思想だ。

アッカーマン・ジオメトリ(Ackermann Geometry)とは、自動車が旋回する際にフロント左右の操舵輪に内輪差が生じても滑らかな旋回力を発生させる設計のことだ。アッカーマン・ジオメトリを用いると、車体がリーンしないという条件下では旋回中心から見て左右の操舵輪の軌跡は同心円を描き、結果的にスムーズな旋回特性が得られる。

ところがヤマハのLMW機構はフロント左右の操舵輪がリーンすることが特徴であるため、車体がリーンしないというアッカーマン・ジオメトリの前提条件は崩れ、操舵輪のリーンによって左右操舵輪の方向性に差が生じる結果となり、スムーズな旋回性が得られない。そこでヤマハはフロント操舵に用いるタイロッドとパラレログラムリンクの設計・レイアウトを最適化し、リーン角度が変化しても最適なアッカーマン・ジオメトリが得られるような構造を開発したという。


<写真:ヤマハ提供>左右のフロントフォークを繋ぐ3つの大きな構造部材のうち、最下部に位置する「タイロッド」はリーン軸とナックルエンドを独立させてオフセットジョイントとすることで、リーン角の変化が起きても左右の操舵輪にトー(車輪の向き)変化が起こらない。


<写真>オフセットジョイントを実車でチェック。仮に左右のアライメント調整が必要になった場合はナックルエンド付近に設けられたシムを使って調整を行うという。


<写真>LMWアッカーマン・ジオメトリを司るフロント周りの全体像。左右を繋ぐ金色の構造部材はアルミ重力鋳造で製作されているが、中空構造として重量を軽減している。3本ある部材のうち、真ん中の大きな部材がパラレログラムリンクだ。ヤマハはLMW機構を開発する上で、数多くのパテントを取得しているという。


<写真>ステアリング部のアップ。写真の中央左よりに見えるのがLMW機構のステアリングヘッド。一般的なバイクではここがステアリング軸となるが、NIKENではそこからジョイントを介して、ライダーが握るハンドルの回転軸をさらに後方へとオフセットさせた。つまりステアリングは2軸なのだ。
この理由についてLMWグループ設計主査の鈴木さんは「ライダーが乗った時の前後の重量配分を50:50としたかったことがまずひとつ。もうひとつの理由はパーツの干渉です。1軸にした場合は、リーン角が大きくなるとフロントフォークとハンドルの干渉が起きてしまいますので、それを防ぐために2軸構造としています」と教えてくれた。


<写真>NIKENの外観で大きく目を引く片側2本のフロントフォーク。2本配置する理由としては、後方にあるフォークのアウターチューブとインナーチューブの摺動部に生じる円周方向の動き(ズレ)を抑制するために、前方のフォークには回り止めの役割を持たせているとのことだった。「もしアウターとインナーが真四角のフォークを作ることができればその必要もなくなるんですけどね(笑)」とは鈴木さん。


<写真>パラレログラムリンク真裏にあるステアリングアーム。ヤマハはNIKENのハンドリング制御に関して一切の電子制御を使用していないという。この理由についてグループ主査の鈴木さんは「まずは機構としての完成度をさらに高めていくことが重要だと考えています。電子制御の投入はその先の話です。そうでないと、電子制御投入による“伸び代”も少ない。これはLMW機構だけでなく機械全般に言える話ですけどね」と。


<写真>会場にはNIKEN、Tricityシリーズのほか、東京モーターショーに登場したTRITOWNも展示されていた。聞けば、ヤマハの3輪モデル開発のルーツは1976年頃に研究開発を目的に製作されたパッソルベースの3輪モデルだったという。実に40年以上も前に、現在のLMWにつながる基礎研究が行われていたのだ。2007年の東京モーターショーで発表された4輪LMWモデル「Tesseract」も、そうした一連の流れの中にあるコンセプトモデルだ。


<写真>NIKENのメーター。左下の「TCS」はトラクション・コントロール・システムで、NIKENでは介入度合いを「1(弱)」「2(強)」「OFF」の3種類からチョイス可能。
その隣にある「MODE」はD-MODEと呼ばれる走行モード切替だ。モードは「1モード=最もスポーティなエンジンレスポンスを楽しめる」「2モード=様々な走行条件に適したモードでスムーズかつスポーティな走行フィールが楽しめる」「3モード=2モードよりもさらに穏やかで扱いやすい出力特性を楽しむ」の3種類となる。


<写真>排気量853cc、MT-09ベースの直列3気筒エンジンはボア×ストローク=78.0×59.0mmで圧縮比は11.5:1。MT-09&XSR900比でクランク慣性モーメントを18%アップさせてドライバビリティを向上させているほか、ミッションにはYZF-R1と同じ高強度素材を使用してスポーツライディングに対応している。また、高速クルーズに重宝するクルーズコントロールも標準装備している。

プロトタイプの発表以来、世界を騒がせてきた前代未聞の3輪スポーツモデルは遂に発売にこぎつけたわけだが、今回のNIKEN発表の大きなトピックのひとつとしては178万2000円(税込)という価格も挙げられるだろう。筆者自身、複雑な機構や数多くの専用設計部品の研究開発にかかるコスト、そして特異な商品性を考えるとNIKEN市販版の価格は200万円オーバーが妥当なラインだろうと感じていたのだが、そんな予想は良い意味で裏切られた。ヤマハは3輪モーターサイクルの普及を本気で考えている、そうした意気込みすら感じる価格設定だ。

「さまざまな排気量帯でLMWテクノロジーを採用したモデルを揃えるのが、私の個人的な夢でもあります」LMW設計グループ主査の鈴木さんは、最後にそんな話をしてくれた。今回は将来的な3輪モデルラインナップについての公式アナウンスこそなかったものの、そうした気配も十分に感じるとることができた発表会だった。

Text/RyoTsuchiyama

 

(バイクブロス・マガジンズ編集部)

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